TOP > CATEGORY − B-10行政への駆け込み
※労働局での続きです。
私がようやく落ちついたとき、Sさんが、
「事情はわかりました」
と、ファイルから一冊のパンフレットを取り出し、私の前に置きました。
『職場におけるセクシュアルハラスメントの防止に向けて』というタイトルの、労働省が作成したものでした。
私は(防止?)と思いました。たしかにセクハラは防止することが何よりです。起こってしまってからでは取り返しがつかないのですから。
しかし私に防止といわれても、まったく意味がありませんでした。
私が必要としたのは、起こってしまったあとの救済でした。
ですが、とりあえず最後まで話を聞こうと思ったので、私は黙っていました。
「それで、Hさんのケースですが――」
と彼女がひらいたページには、こう記されていました。
〈対価型セクシュアルハラスメント〉
職場において行われるものです。
女性労働者の意に反する性的な言動に対する女性労働者の対応によって、その女性労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けることです。
〈環境型セクシュアルハラスメント〉
職場において行われるものです。
女性労働者の意に反する性的な言動により、女性労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その女性労働者が就業する上で見過ごせない程度の支障が生じることです。
「Hさんの場合、少し難しいのですが、『対価型』と『環境型』のどちらにも該当するところがありますね」
彼女の説明を聞きながら、私は書かれてある文字を熱心に読みました。
「本当に微妙なんですが、どちらとも言えず、どちらにも当てはまるとも言えますね」
彼女があいまいに言いました。
続いて彼女がめくったページには、『職場におけるセクシュアルハラスメント防止対策』という項目がありました。セクハラ防止のために事業主が配慮すべきことが記されていました。
雇用管理上配慮すべき事項
1 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
2 相談・苦情への対応
3 職場におけるセクシュアルハラスメントが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応
「Hさんの話を聞いた限りでは、会社に相談窓口がないようですね」とSさん。
「はい。ありません」
「就業規則には、セクハラについての記載はあるんでしょうか」
「わかりません。就業規則は一度も見たことがないので。入社のとき、支店長に、就業規則は見せたくない、と言われたんです。だから、見せてほしいと言えなくて……でも、たぶん載ってないと思います」
彼女はそう聞くと、一呼吸おいて言いました。
「行政では、会社に対して指導することができます」
続いて彼女が、申しわけなさそうに口をひらきました。
「ただ、行政指導というのは、あくまで会社に対してセクハラの予防や対応の仕方を指導するだけで、個人の問題には介入できないんです」
私は失望しました。もともと大きな期待があったわけではないけれど、ここまで消極的とは思わなかったのです。
それでも行政指導を依頼しました。
できることは何でもしていきたい――そう考えたからです。
Sさんが、「その件は後日連絡を取り合いましょう」と提案しました。
そこで話は終わり、私はなんとなく気分の晴れぬまま、N氏とふたりでその場をあとにしたのでした。
私がようやく落ちついたとき、Sさんが、
「事情はわかりました」
と、ファイルから一冊のパンフレットを取り出し、私の前に置きました。
『職場におけるセクシュアルハラスメントの防止に向けて』というタイトルの、労働省が作成したものでした。
私は(防止?)と思いました。たしかにセクハラは防止することが何よりです。起こってしまってからでは取り返しがつかないのですから。
しかし私に防止といわれても、まったく意味がありませんでした。
私が必要としたのは、起こってしまったあとの救済でした。
ですが、とりあえず最後まで話を聞こうと思ったので、私は黙っていました。
「それで、Hさんのケースですが――」
と彼女がひらいたページには、こう記されていました。
〈対価型セクシュアルハラスメント〉
職場において行われるものです。
女性労働者の意に反する性的な言動に対する女性労働者の対応によって、その女性労働者が解雇、降格、減給などの不利益を受けることです。
〈環境型セクシュアルハラスメント〉
職場において行われるものです。
女性労働者の意に反する性的な言動により、女性労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その女性労働者が就業する上で見過ごせない程度の支障が生じることです。
「Hさんの場合、少し難しいのですが、『対価型』と『環境型』のどちらにも該当するところがありますね」
彼女の説明を聞きながら、私は書かれてある文字を熱心に読みました。
「本当に微妙なんですが、どちらとも言えず、どちらにも当てはまるとも言えますね」
彼女があいまいに言いました。
続いて彼女がめくったページには、『職場におけるセクシュアルハラスメント防止対策』という項目がありました。セクハラ防止のために事業主が配慮すべきことが記されていました。
雇用管理上配慮すべき事項
1 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
2 相談・苦情への対応
3 職場におけるセクシュアルハラスメントが生じた場合における事後の迅速かつ適切な対応
「Hさんの話を聞いた限りでは、会社に相談窓口がないようですね」とSさん。
「はい。ありません」
「就業規則には、セクハラについての記載はあるんでしょうか」
「わかりません。就業規則は一度も見たことがないので。入社のとき、支店長に、就業規則は見せたくない、と言われたんです。だから、見せてほしいと言えなくて……でも、たぶん載ってないと思います」
彼女はそう聞くと、一呼吸おいて言いました。
「行政では、会社に対して指導することができます」
続いて彼女が、申しわけなさそうに口をひらきました。
「ただ、行政指導というのは、あくまで会社に対してセクハラの予防や対応の仕方を指導するだけで、個人の問題には介入できないんです」
私は失望しました。もともと大きな期待があったわけではないけれど、ここまで消極的とは思わなかったのです。
それでも行政指導を依頼しました。
できることは何でもしていきたい――そう考えたからです。
Sさんが、「その件は後日連絡を取り合いましょう」と提案しました。
そこで話は終わり、私はなんとなく気分の晴れぬまま、N氏とふたりでその場をあとにしたのでした。




