『セクシュアルハラスメント』と『セカンドハラスメント(二次的嫌がらせ)』の被害者の声です。
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「Mちゃんに電話したの?」
母に言われて、私は彼女に電話をかける決心をしました。
Mは中学時代からの友人で、なんでも話せて信頼できる数少ない友人のひとりでした。
数日前にMから電話があったらしく、そのことを母から伝えられていたのでしたが、とてもそんな状況ではなく、そのままにしていたのです。

私は電話をかけました。
コール音のあとに、受話器の向こうから耳慣れた声が聞こえました。
「もしもし?」Mの声です。
「あ、H×ですけど。なんか、電話をもらったみたいで……」
Mとはしばらく連絡を取り合っていなかったので、話すのは久しぶりでした。が、すぐにいつもの調子で、互いの仕事や恋愛について話し合いました。

私は、セクハラを受けたこと、その後の周囲の嫌がらせについて語りました。
Mは、
「H×にそんなことがあったなんて……。今まで私の周りではそういうことってなかったから、まさか自分に近い人間の身の上にそんなことが起こるなんて驚いた」
と、ほんとうに驚いていました。

彼女は幸せだなあと思いました。
セクハラって、けっこうどこにでもあるものです。自分が被害者ではないにしても、見聞きすることは珍しくないでしょう。新聞を読んでみても、セクハラ事件の記事が、定期的と感じるほど頻繁に登場します。そのたびに、「ああ、またか」とため息をつき、加害者の身勝手な行為には憤ります。
そして身近なところでも、私は被害者でありながら、ほかの被害者の話を聞いていました。近所に住む、母の知り合いの娘さんは、看護師として勤めていた病院で被害に遭って、何も言えずに辞めたのだとか。
そういう社会において、Mがこれまでただの一度もセクハラを現実のものとして知らずにこられたのは幸運だと思ったし、うらやましい限りでした。

そんなMではありますが、彼女は物事を公平に判断できる頭のいい人であり、そこに私は一目置いていたので、ずっと理解できずにいたことを質問してみました。
「(T山がセクハラを)やめてくださいって言ってもやめてくれなかったのは、どうしてだと思う?」

やはりMは、彼女の明晰な頭脳で、的確に心理および状況分析してくれました。
「そういうときってさあ、こっちが気をつかって苦笑いになっちゃうよね、大事(おおごと)にしないようにって。だから、やめてくださいようってわざと明るく言ってさ。それが相手にとっては、楽しそうだったり喜んでいるように見えたりして、誤解されちゃうんだよね。ほんとは顔ひきつってんだけどね」

Mちゃんはすごい──と私は感動しました。彼女は、まるで現場に居合わせたかのように解説してのけたのです。

ただし、それは初回に限ってのことでした。その後のセクハラに対しては、私は苦笑どころか嫌悪を隠さなかったのに、T山がやめなかったのはなぜか? という疑問の答えにはなってくれませんでした。
だけどMにそこまで答えを求めるのは酷だと思ったから、それ以上は何も訊きませんでした。

「会社の中で、誰か助けてくれる人いないの?」とM。
「みんな、支店長の手がまわっているから、誰もいない……支店長の言うことは絶対だし、逆らえる人なんていないよ」
「同僚の女の人は?」
「先輩は関わりたくないって感じで聞く耳持ってくれなかったから、私も無理に話さなかった。同期の子にはけっこう話はしてたけど、なんか、面白がってるって感じ。人の不幸が楽しくて仕方ないってタイプだし、もともと私のこと気に食わないと思ってたんじゃないの」
私は後半やけになって言いました。

「H×は、人から誤解されやすいところがあるからねえ」
と、Mがしみじみと言いました。
Mと私は互いの性格をよく知っていました。私はあまりおしゃべりではなく、どちらかというと聞き役が多く、自分の思ったことを言わずにいることがあるので、他人に誤解されるのかもしれません。Mの言うとおりでした。

そんなふうに、彼女が私のよき理解者であることを感心していたら、受話器から物騒なセリフが飛びだしました。
「でもさ、そいつらの頭を、斧で叩っ斬ったらスカッとするよね」

さすがに私は度肝を抜かれて、素直な感想を口にしました。
「私ですらそこまで考えなかったわ……」
「じつは最近観た映画の影響で、ついそんな発想をしちゃった」
Mは恥ずかしそうに笑ったあと、映画の内容を教えてくれました。
タイトルは「バトル・ロワイアル」という邦画で、さながら生き残りゲームのごとく人が殺し合うという血なまぐさいものでした。

映画好きのMでしたけれど、なにもそんな恐ろしげなジャンルまで観なくても……と、彼女の精神への影響をおもんぱかる反面、なるほど言われてみればスカッとするかなと、試しに頭の中で斧を持ってみました。そして振りかぶり……

いや、いけない。私は改心して斧を投げ捨て、
「でも、そんなことするより、法的にできることをやっていこうと思うの」
とまじめに言いました。
「そうだね。それがいいね」
Mも真剣に答えたので、私はなんだか可笑しくなってしまいました。

彼女は好奇心旺盛で、話題が豊富なうえに話し上手なので、私はいつも大笑いさせられていたものです。この日も色々な話を聞き、私は腹を抱えて笑いました。自分がまだこんなにも笑えるのかと嬉しくなるくらいに。

以前と変わらぬMとの会話は、このときの私にとって大きな救いとなっていました。どれだけ人に裏切られようとも、私には心を許せる友人がいるのだと。



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