十二月三十日。前日よりは大分落ち着いたものの、朝も昼も食事をとっていませんでした。
さすがに夕食の時間には、母が私の部屋まで呼びに来たので、私は夕食をとることに決め一階におりました。親と顔を合わせるのはつらかったけれど、何も食べないでいるのは危険だし、何より親が心配すると思ったからです。
居間に入ると、テーブルにはすでに料理が並べられていました。私は自分の席に座ると、久し振りに食べ物を口に入れました。
父が訊きました。「××子(私の名前)は腹が減らないのか」
私は答えようがありませんでした。
きっと、わけもわからず母とふたりで心配していたに違いありません。
再び私の気持ちが重くなっていきました。
やはり話さなくては理解してもらえないでしょう。
食事を終えてすぐ、私は部屋に戻りました。
どう切り出せばいいかわからず悩んでいるとN氏からメールが届きました。
『お父さんにはちゃんと話せた?』
私ははっとしました。
あそこまで協力してくれたN氏に何と説明すればいいのでしょうか。
「やっぱり話せませんでした」とは言えないはずです。
私はそれをきっかけに決心を固め、再び父のいる居間へ向かいました。
居間を覗いてみると、父は横になって眠っているようでした。
どうしたものかとうろうろしていると母に見つかってしまいました。
「どうしたの」
「話があるんだけど、眠っているみたいだから……」
そう言葉にしたら、一気に涙が出てきました。
「ひとりで悩んでないで相談しなさいよ」母は居間に移動して、「ちょっと父さん、××子が、話があるんだって」と、父を起こしてくれました。
私は、少し寝ぼけ気味の父のそばに座りました。
私の向かい側で母が犬を抱いて心配そうにしていました。
それから私は、セクハラと二次的嫌がらせについて、そして、ついおととい労働局に相談に行ったことなど事情を説明しました。支店長の文書と、労働局のパンフレットも見せました。
父は、ひと通り話を聞くと言いました。
「会社はもう行かないのか?」
「うん。行けない……」
「そうか。行かないのか」
父は、N氏と同じ言い方をしました。
「行かない」と「行けない」は、一字しか違わないのに意味がまったく違います。「行かない」と言うと、「行こうと思えば行けるけれど」という意味を含みます。私が甘えるか怠けるかして、行かないほうを選択したみたいなニュアンスですよね。
そうじゃなくて、選択の余地なしに、行きたくとも「行けない」のでした。
そういう状態があることを、N氏に伝えられなかったし、父にも伝わらなくて、私はもどかしくて悲しくなりました。
そのあと、父は労働局のパンフレットのタイトル(『職場におけるセクシュアルハラスメントの防止に向けて』)を見て、
「予防じゃ意味がないじゃないか」
と少し腹を立てているようでした。
「うん。行政ではできることが限られていて、個人の問題には介入できないんだって……だから弁護士に相談しようかと思ってるんだ」
すると、父は力強くこう言いました。
「訴えなさい」
そのあと、父は訊きました。
「裁判は、民事になるのか?」
「うん。たぶん民事だと思う」
「刑事では無理なのか?」
「それは難しいと思う。でも、私は民事でもいいと思ってる。何年かかるかわからないし、負けるかもしれないし、もし勝ったとしても慰謝料なんてほんのちょっとだと思うけど……。でも、私、泣き寝入りはしたくない。だから、とりあえず、弁護士に会ってみる」
父は、何も反論しませんでした。
私は、まだ不安と迷いに揺れていましたが、乗り越えて行けるような気がしました。私には心配してくれる父と母がいる。支えになってくれるN氏もいる。けっしてひとりぼっちではないのだから。
さすがに夕食の時間には、母が私の部屋まで呼びに来たので、私は夕食をとることに決め一階におりました。親と顔を合わせるのはつらかったけれど、何も食べないでいるのは危険だし、何より親が心配すると思ったからです。
居間に入ると、テーブルにはすでに料理が並べられていました。私は自分の席に座ると、久し振りに食べ物を口に入れました。
父が訊きました。「××子(私の名前)は腹が減らないのか」
私は答えようがありませんでした。
きっと、わけもわからず母とふたりで心配していたに違いありません。
再び私の気持ちが重くなっていきました。
やはり話さなくては理解してもらえないでしょう。
食事を終えてすぐ、私は部屋に戻りました。
どう切り出せばいいかわからず悩んでいるとN氏からメールが届きました。
『お父さんにはちゃんと話せた?』
私ははっとしました。
あそこまで協力してくれたN氏に何と説明すればいいのでしょうか。
「やっぱり話せませんでした」とは言えないはずです。
私はそれをきっかけに決心を固め、再び父のいる居間へ向かいました。
居間を覗いてみると、父は横になって眠っているようでした。
どうしたものかとうろうろしていると母に見つかってしまいました。
「どうしたの」
「話があるんだけど、眠っているみたいだから……」
そう言葉にしたら、一気に涙が出てきました。
「ひとりで悩んでないで相談しなさいよ」母は居間に移動して、「ちょっと父さん、××子が、話があるんだって」と、父を起こしてくれました。
私は、少し寝ぼけ気味の父のそばに座りました。
私の向かい側で母が犬を抱いて心配そうにしていました。
それから私は、セクハラと二次的嫌がらせについて、そして、ついおととい労働局に相談に行ったことなど事情を説明しました。支店長の文書と、労働局のパンフレットも見せました。
父は、ひと通り話を聞くと言いました。
「会社はもう行かないのか?」
「うん。行けない……」
「そうか。行かないのか」
父は、N氏と同じ言い方をしました。
「行かない」と「行けない」は、一字しか違わないのに意味がまったく違います。「行かない」と言うと、「行こうと思えば行けるけれど」という意味を含みます。私が甘えるか怠けるかして、行かないほうを選択したみたいなニュアンスですよね。
そうじゃなくて、選択の余地なしに、行きたくとも「行けない」のでした。
そういう状態があることを、N氏に伝えられなかったし、父にも伝わらなくて、私はもどかしくて悲しくなりました。
そのあと、父は労働局のパンフレットのタイトル(『職場におけるセクシュアルハラスメントの防止に向けて』)を見て、
「予防じゃ意味がないじゃないか」
と少し腹を立てているようでした。
「うん。行政ではできることが限られていて、個人の問題には介入できないんだって……だから弁護士に相談しようかと思ってるんだ」
すると、父は力強くこう言いました。
「訴えなさい」
そのあと、父は訊きました。
「裁判は、民事になるのか?」
「うん。たぶん民事だと思う」
「刑事では無理なのか?」
「それは難しいと思う。でも、私は民事でもいいと思ってる。何年かかるかわからないし、負けるかもしれないし、もし勝ったとしても慰謝料なんてほんのちょっとだと思うけど……。でも、私、泣き寝入りはしたくない。だから、とりあえず、弁護士に会ってみる」
父は、何も反論しませんでした。
私は、まだ不安と迷いに揺れていましたが、乗り越えて行けるような気がしました。私には心配してくれる父と母がいる。支えになってくれるN氏もいる。けっしてひとりぼっちではないのだから。




