やっと、一台の車が、私の近くに停まるのが見えました。
運転席にN氏を見つけ、助手席に乗り込みました。
それまでこらえていたものが全部溢れ出て、私は声をあげて泣きました。もともと泣き虫だったけれど、これほど号泣したことはありませんでした。
N氏は、何も言わずに車をだしました。
しばらく走り続け、私が少し落ち着いた頃、ひと気のない場所に車を停めました。
少ししてN氏は、静かに言いました。
「今、その文書持ってるの?」
私はバッグからそれを取り出し、N氏に差し出しました。
彼は静かに読みはじめました。
彼は読み終えても、すぐには言葉が出ないようでした。
やがて、沈黙ののち、N氏が口をひらきました。
「ここに書いてあること……言ったりしたの?」
彼の訊きたいことがすぐにわかったので、私は答えました。
「私、かわいいなんて一度も言ってない!」
N氏はくやしそうに呟きました。
「なんだよ、この『他の社員も聞いている』『他の社員も同じ意見だ』って……」
「きっと、自分ひとりでは何もできないんだよ。周りの人を巻き込んで自分の味方につけるのが支店長のやり方なんだよ」
支店長は、人の陰口や噂話をよくしていました。事情を知らない者にも、あることないこと吹き込むのです。私は、ずっと、それをフェアじゃないと思っていました。陰口を言われたほうは、反論のすべがないのだから。
私は、会社で真奈美に言われたことを説明しました。
「それにね、きょう、来年の仕事始めに来なくていいって言われたの」
N氏が訊きました。「来なくていいって言われたの?」
「うん」
「会社に来なくていいって?」と、N氏はいっそう深刻な顔をしました。
私は言いました。
「この文書だって、ほかの社員に見せようとしたのか、それとも、私に見せようとしたのかもしれない。私がデータの管理をしてることを支店長は知ってたから、わざと目につくようにデータを残したのかも。私、もう会社に行けない」
「もう行かないの?」
「うん。行けない。ほんとうは、あと一カ月くらいがんばってから辞めようと思ってたんだけど……私、もう行けないよ」
N氏は念を押しました。
「行かないの?」
違うよ、Nさん。行かないんじゃない。
「行けない……」
N氏はこう切り出しました。
「労働局に相談に行こうか」
私は少し考えてから、黙ってうなずきました。
「俺、明日も休みだから一緒に行こう。大丈夫、労働局は働く人の味方なんだから」
と、N氏は励ますように明るく言いました。
彼はいつでも頼りになる存在でした。
きっと、彼が一緒だったら大丈夫。
そのあとはN氏に家まで送ってもらい、翌日の約束をして車を降りました。
帰宅後、私は二階の自室にこもり、夕食もとりませんでした。親と顔を合わせるのが、とてもつらいことだったからです。
運転席にN氏を見つけ、助手席に乗り込みました。
それまでこらえていたものが全部溢れ出て、私は声をあげて泣きました。もともと泣き虫だったけれど、これほど号泣したことはありませんでした。
N氏は、何も言わずに車をだしました。
しばらく走り続け、私が少し落ち着いた頃、ひと気のない場所に車を停めました。
少ししてN氏は、静かに言いました。
「今、その文書持ってるの?」
私はバッグからそれを取り出し、N氏に差し出しました。
彼は静かに読みはじめました。
彼は読み終えても、すぐには言葉が出ないようでした。
やがて、沈黙ののち、N氏が口をひらきました。
「ここに書いてあること……言ったりしたの?」
彼の訊きたいことがすぐにわかったので、私は答えました。
「私、かわいいなんて一度も言ってない!」
N氏はくやしそうに呟きました。
「なんだよ、この『他の社員も聞いている』『他の社員も同じ意見だ』って……」
「きっと、自分ひとりでは何もできないんだよ。周りの人を巻き込んで自分の味方につけるのが支店長のやり方なんだよ」
支店長は、人の陰口や噂話をよくしていました。事情を知らない者にも、あることないこと吹き込むのです。私は、ずっと、それをフェアじゃないと思っていました。陰口を言われたほうは、反論のすべがないのだから。
私は、会社で真奈美に言われたことを説明しました。
「それにね、きょう、来年の仕事始めに来なくていいって言われたの」
N氏が訊きました。「来なくていいって言われたの?」
「うん」
「会社に来なくていいって?」と、N氏はいっそう深刻な顔をしました。
私は言いました。
「この文書だって、ほかの社員に見せようとしたのか、それとも、私に見せようとしたのかもしれない。私がデータの管理をしてることを支店長は知ってたから、わざと目につくようにデータを残したのかも。私、もう会社に行けない」
「もう行かないの?」
「うん。行けない。ほんとうは、あと一カ月くらいがんばってから辞めようと思ってたんだけど……私、もう行けないよ」
N氏は念を押しました。
「行かないの?」
違うよ、Nさん。行かないんじゃない。
「行けない……」
N氏はこう切り出しました。
「労働局に相談に行こうか」
私は少し考えてから、黙ってうなずきました。
「俺、明日も休みだから一緒に行こう。大丈夫、労働局は働く人の味方なんだから」
と、N氏は励ますように明るく言いました。
彼はいつでも頼りになる存在でした。
きっと、彼が一緒だったら大丈夫。
そのあとはN氏に家まで送ってもらい、翌日の約束をして車を降りました。
帰宅後、私は二階の自室にこもり、夕食もとりませんでした。親と顔を合わせるのが、とてもつらいことだったからです。




