住所録が仕上がったのは七時頃でした。
ほかの者はまだ帰る様子はなく、皆、私が帰るのを待っているのではないかと感じました。
私は帰り支度をして、タイムカードを押すと、何も言わずに事務所を出ました。
廊下に出ると、エレベーターへは向かわずに、廊下を右に行きました。それからトイレに誰もいないことを確認して個室に入り、先ほど見つけた支店長の文書を読むことにしました。
『今回の件については様々に見方があると思われる。一方的に聞くとT山という男性が悪者となる。それをとらえ○○支店へ仕事に来ることも、仕事の電話も禁止した。その話をした翌日、仕事の打ち合わせで急きょ○○支店に会社指示によりT山が支店にきてしまった。翌日二日間、Hは会社を無断で休んだ。私がその夜自宅に電話するとかなり腹を立てていて、私も嘘つき呼ばわりされた。またそうならないように努力するという事の話をし、彼女はまた出勤するようになった。
問題は彼女の言い分である。T山は○○支店には必要な人材であり、重要な立場でもある。無くてはならない人材である。但し彼女の話を聞けば○○支店にきてはだめということになる。彼女は再三なるセクハラを受けたと主張している。果たしてそうであろうか。いやなのにそんないやな顔もせず何度も飲みにいくであろうか。支店の社員もほとんど同席している。皆も楽しそうだったと言う。彼女は会社では言いたい事ははっきり彼にも言っている。上司の誘いだから断れずに行ったと言う。そんなことは無いと思う。他の社員も同じ意見だ。彼の事を冗談かどうかしらないが、かわいいとも言っている。他の社員も聞いている。お互いまんざらじゃないといった感じだった。ただこの問題がおきる直前に食事に行った時、2次会まで行った訳だが、彼は彼女が帰ったあとホステスと待ち合わせをした。それを彼女が知ってからだ。彼女も再三それを強調している。
要は、プライドを傷つけられた事に腹を立てている、それがくやしくてセクハラというかたちをとって逆恨みをしているというのが我々皆の意見である。
皆が相当彼女に会社で気をつかっている。要は彼女の性格の問題だ。』
私は声にならない悲鳴をあげて、その場に泣き崩れました。
頭が混乱していました。
いったい何があったというの?
どうしてこんなことになってしまったの?
何かが崩れ落ちていく音が聞こえました。自分が壊れてしまうと感じました。
こわかった。
私は、とまらない涙をハンカチでぬぐい、パニックから抜け出そうとしました。そして、何とかN氏と連絡が取りたいと思い、バッグから携帯電話を取り出しました。
すると偶然にも、N氏からメールが入っていました。時刻は、つい三十分ほど前でした。私はすぐに電話をかけました。
N氏が出ると、私は泣きじゃくりながら文書のことを話しました。N氏は、今から会社まで迎えに行くからと言ってくれましたが、私は会社から離れた場所を待ち合わせ場所に指定しました。
外は、もうすっかり暗くなっていました。私は人通りの少ない道を選んで、目的地まで歩きはじめました。ずっと涙は止まりませんでした。きっとすごくひどい顔をしているに違いないと思ったけど、一刻も早く会社から離れたいと思いました。ハンカチを握りしめ、誰かに顔を見られぬよう、うつむいて歩き続けました。
待ち合わせ場所は、バス通りに面した歩道でした。私がそこを選んだのは、比較的人通りが少なく、車が一時停止できる場所だったからです。
たどり着くと、N氏はまだ来ていませんでした。
私は、近くにあったベンチに歩道側に背を向けて座りました。そのベンチは車道近くに設置してあるため、車道のほうへ顔を向けることになりました。私は、携帯電話を見る振りをして、下を向きました。
十二月の夜は、冷え込むことが多いです。N氏は渋滞で遅れて、しばらく待つことになりました。でも、寒さは苦になりませんでした。
N氏を待つあいだ、先ほどの文書について考えました。
この文書は何のために書かれたのだろうか?
わざわざ文字にして保存する必要があるとしたら、誰かに読ませるためだろう。だが、この文書には、宛名も差出人の名前もない。ということは、不特定の人間に読ませることが目的だったのではないだろうか。それも、匿名で。
支店長のやりそうなことでした。
ほかの者はまだ帰る様子はなく、皆、私が帰るのを待っているのではないかと感じました。
私は帰り支度をして、タイムカードを押すと、何も言わずに事務所を出ました。
廊下に出ると、エレベーターへは向かわずに、廊下を右に行きました。それからトイレに誰もいないことを確認して個室に入り、先ほど見つけた支店長の文書を読むことにしました。
『今回の件については様々に見方があると思われる。一方的に聞くとT山という男性が悪者となる。それをとらえ○○支店へ仕事に来ることも、仕事の電話も禁止した。その話をした翌日、仕事の打ち合わせで急きょ○○支店に会社指示によりT山が支店にきてしまった。翌日二日間、Hは会社を無断で休んだ。私がその夜自宅に電話するとかなり腹を立てていて、私も嘘つき呼ばわりされた。またそうならないように努力するという事の話をし、彼女はまた出勤するようになった。
問題は彼女の言い分である。T山は○○支店には必要な人材であり、重要な立場でもある。無くてはならない人材である。但し彼女の話を聞けば○○支店にきてはだめということになる。彼女は再三なるセクハラを受けたと主張している。果たしてそうであろうか。いやなのにそんないやな顔もせず何度も飲みにいくであろうか。支店の社員もほとんど同席している。皆も楽しそうだったと言う。彼女は会社では言いたい事ははっきり彼にも言っている。上司の誘いだから断れずに行ったと言う。そんなことは無いと思う。他の社員も同じ意見だ。彼の事を冗談かどうかしらないが、かわいいとも言っている。他の社員も聞いている。お互いまんざらじゃないといった感じだった。ただこの問題がおきる直前に食事に行った時、2次会まで行った訳だが、彼は彼女が帰ったあとホステスと待ち合わせをした。それを彼女が知ってからだ。彼女も再三それを強調している。
要は、プライドを傷つけられた事に腹を立てている、それがくやしくてセクハラというかたちをとって逆恨みをしているというのが我々皆の意見である。
皆が相当彼女に会社で気をつかっている。要は彼女の性格の問題だ。』
私は声にならない悲鳴をあげて、その場に泣き崩れました。
頭が混乱していました。
いったい何があったというの?
どうしてこんなことになってしまったの?
何かが崩れ落ちていく音が聞こえました。自分が壊れてしまうと感じました。
こわかった。
私は、とまらない涙をハンカチでぬぐい、パニックから抜け出そうとしました。そして、何とかN氏と連絡が取りたいと思い、バッグから携帯電話を取り出しました。
すると偶然にも、N氏からメールが入っていました。時刻は、つい三十分ほど前でした。私はすぐに電話をかけました。
N氏が出ると、私は泣きじゃくりながら文書のことを話しました。N氏は、今から会社まで迎えに行くからと言ってくれましたが、私は会社から離れた場所を待ち合わせ場所に指定しました。
外は、もうすっかり暗くなっていました。私は人通りの少ない道を選んで、目的地まで歩きはじめました。ずっと涙は止まりませんでした。きっとすごくひどい顔をしているに違いないと思ったけど、一刻も早く会社から離れたいと思いました。ハンカチを握りしめ、誰かに顔を見られぬよう、うつむいて歩き続けました。
待ち合わせ場所は、バス通りに面した歩道でした。私がそこを選んだのは、比較的人通りが少なく、車が一時停止できる場所だったからです。
たどり着くと、N氏はまだ来ていませんでした。
私は、近くにあったベンチに歩道側に背を向けて座りました。そのベンチは車道近くに設置してあるため、車道のほうへ顔を向けることになりました。私は、携帯電話を見る振りをして、下を向きました。
十二月の夜は、冷え込むことが多いです。N氏は渋滞で遅れて、しばらく待つことになりました。でも、寒さは苦になりませんでした。
N氏を待つあいだ、先ほどの文書について考えました。
この文書は何のために書かれたのだろうか?
わざわざ文字にして保存する必要があるとしたら、誰かに読ませるためだろう。だが、この文書には、宛名も差出人の名前もない。ということは、不特定の人間に読ませることが目的だったのではないだろうか。それも、匿名で。
支店長のやりそうなことでした。




