『セクシュアルハラスメント』と『セカンドハラスメント(二次的嫌がらせ)』の被害者の声です。
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数日後、会長が本社から電話をかけてきました。私に用だというので驚いたけど、もう内容は決まっていますね。

ほかの人に聞かれると気まずいので、私は打ち合わせ室(といってもパネルで仕切られただけのスペース)に移動しました。
私が電話を受けると、
「い、今、会長室にね、T山を呼んでね、一緒にいるんですよ。そ、それでね、何を訊いても返事をしないんですよ。ず、ずっと黙ってるんですよ。困ったもんですねえ」
と、あの会長が困っていました。
「い、いいからお詫びの手紙を書きなさいって言ってもね、まったく書かないんですよ」
T山が会長の指示に背くとは意外でした。
「と、とにかくね、かわりますから、話をしてください」
嫌だと断ることはできませんでした。会長命令でしたから。

「もしもし」T山の汚い声にかわりました。
私はこの際だからはっきり片を付けようと思い、詰問しました。
「どうしてあんなことしたんですか」
「……」
「答えてください。どうしてあんなことしたんですか」
「……」
「なんで黙ってるんですか」
「……」
T山からは何の反応も返ってきませんでした。

このような場面では普通、言い訳やひらき直りの文句の一言でも出てくるものだと思っていました。それすらもないというのでは争うことができません。私は腹が立つよりも先に困ってしまい、T山と同じに黙するしかありませんでした。



長い沈黙を、T山のいぶかしげな声が破りました。
「もしもし?」

これは、私が黙っていることに対する問いかけの「もしもし?」です。いつぞやの電話のときと同じでした。私はキレそうになったが耐えました。
今度こそ会話が成立するかもしれないと思い、尋問をリスタートしました。
「質問に答えてください」
「……」
「自分のしたことがわかってるんですか」
「……」
「あなたがしたことはセクハラですよ!」
「……」
「なんとか言ったらどうなんですか!」
「……」
T山の黙秘は続き、会話の一方通行からは抜け出せませんでした。
またしてもT山は沈黙をもって私の口を封じたのです。



そうしてしばらく音はとぎれて、やっとT山がしゃべるかと思ったら、
「もしもし?」

私はしびれを切らし、
「もしもしじゃねえだろ! こっちが質問してんだよ! ふざけんな!」
と、言葉はいささか乱暴になりました。
事務所にいるほかの社員に聞かれていたかもしれません。が、諦めるわけにはいきませんでした。私はずっと、数々の謎に悩み苦しんできたのです。

なぜ私がセクハラされなければならなかったのか?
私ひとりがターゲットだったのはなぜか?
M美やF子でもよかったのではなかったか?
私でなければいけない理由があったのか?
では、その理由とはどんなことで、誰のなかにあった理由なのか?
――それらの、どうしても解かねばならない疑問の答えを求めるために、私はやっとのところで激情を抑え、それでも必死になって心の叫びをぶつけました。
「やめてくださいって言ったのに、どうしてやめなかったんですか!」
「……」
「どうして私だったんですか!」
「……」
「どうして私じゃなきゃいけなかったんですか!」
「……」
「答えてくださいよ!」
「……」

私は辛抱強く答えを待ちました。



静寂ののち、T山が言いました。
「もしもし?」

私は、このようなバカをほかに知りません。これではいつまでやってもらちがあきませんでした。


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