『セクシュアルハラスメント』と『セカンドハラスメント(二次的嫌がらせ)』の被害者の声です。
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会長は、東京支店の女性社員について話していたと思ったら、急に話を変えてきました。
「え、え、Hさん。こ、こんな話がね、あ、あるんですよねえ」

何でしょう? 私は真剣に耳を傾けました。

「あ、あるところにね、電車で痴漢をされたって言って、ひとりの男を警察に突き出した女がいたんですよ。でもですね、じつは、そ、その男というのが、女を振った相手だというんですよ」
「……」
「そ、その女はね、振られた腹いせにね、男に濡れ衣を着せてね、ふ、ふ、復讐しようとしたっていうんですよ」
「……」
「そそ、そういう話があるんですよねえ」

会長が意味ありげに言いながら、疑いを含んだ目つきで私を見たので、彼が何を言わんとしているのかが読めました。私が、その女と同じことをしていると疑っていたのです。
つまり、私が振られた腹いせに、セクハラという濡れ衣をT山に着せたのではないかということを、会長は遠まわしに示したのです。

そのような復讐女、そうそう存在してたまるものか。
会長が知っているくらいだから、新聞かテレビか週刊誌かいずれかで取りあげられた話でしょう。言わずもがな、珍しいから騒がれるのです。その数は、セクハラ被害者のほうが圧倒的に多いに決まっています。

それに、セクシュアルハラスメントを第三者に言及するという行為は、復讐の手段として選ばれ用いられるほど手軽なことではありません。
性的な内容であるし、不名誉なことでもあり、他人に相談するにはたくさんの勇気を必要とするものです。苦しみから抜け出そうと必死になっている者にしかできないことです。

だから、復讐女の珍事を例にあげてあらぬ疑いをかけることこそが「濡れ衣」であり、私を侮辱するものでした。
くやしかった。

それでも私はただ黙っていました。もっとはっきりと疑われでもしたら反論のしようはあったけれど、会長は事実上では、どこの誰かもわからない女の話をしただけだったし、何より相手は腐っても会長だったからです。

結局、私はそんなふうに疑われただけで、話は終わってしまいました。


この日は例によって、仕事を終えてからは、全員参加の飲み会となりました。
その帰り、会長はタクシーに乗る前に、私のそばに来て言いました。
「もう、あんなことで支店に呼ばないでくださいよ」
言葉とはうらはらに、社員に相談されたことがよほど嬉しかったのだろうと容易に察することができるくらいに、彼はとてもはしゃいでいました。
この反応は、いつしかの支店長と似ていて、私の深刻さとはギャップがありました。

そのように会長が軽い感覚でいることにしても、昼間の話からしても、どうやら彼もセクハラ組らしいということがわかりました。
では私は、F子に責められてまで、何のために会長と会見したのだろうという、そんな疑問が残っただけだったのです。


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