支店長と電話で話したあとの数週間は、次長との接触はなく、私は平穏を取り戻しました。
そんなある日、たまたま支店長と外で昼食をとることになり、会社からほど近い店に入ったときのことです。
食事をしながら、支店長が訊いてきました。
「T山から電話あった?」
支店長はいつの間にか、次長を呼び捨てにしていました。
私は「いいえ」と首を横に振りました。
「俺、T山にひと言だけでもいいから、謝れって言ったんだけどな。もちろん電話でだけど」
「もしかかってきても、私、話したくありません」
「いや、わかってるよ。でも、男だったらどんなに冷たくされようと、それこそ蹴られようと、それでも詫びるものでしょ。あの会議のあった日にT山にちゃんと話したんだけどさ、あいつ、何も言わないで黙ってるんだよ。『すみません』って言ってすぐ切ってもいいからって言ったんだけど、なんで電話しないのかなぁ」
支店長なりに考えてのことだろうが、私はそんなことは望んでいませんでした。次長の顔も見たくないし話もしたくないのはずっと変わっていなかったのです。
このあと支店長は、
「会長にも自分で話せって言ったんだけど、言ってないみたいなんだ」
と言ったのですが、あの次長が自分で話すわけがないのだから、支店長から会長に報告するべきではないでしょうか。
「俺、とことんやり合ったほうがいいと思うんだ。一回、ふたりで会って、Hちゃんの気の済むように言いたいこと言ってさ。なんだったら殴ってもいいから。そのほうがいいと思うけどな」
支店長は、楽しそうに言いました。それは、傍観者である支店長が、見ていて面白いから言っているようにとれました。
この男に相談したのは間違いだったような気がしました。やっぱり全然わかっていなかったのです。
私が負った傷は、報復をもってしても消すことができません。
起きてしまったことは、たとえ相手を殺しても、なかったことにはならないのです。
支店長には理解できないことかもしれないけれど、仮にも上司であるのだから、もう少し考えようがあるだろうに、と私は悲しくなりました。
それから店を出て会社に戻る途中も、次長についての話は続きました。
「上司だったら、会社の女の子に好かれたいって思うものだけど、あいつの場合、意味が違うんだよ」と支店長。
「恋愛感情とはまた違った意味ですよね」
「うん。あいつにも、会社の女の子はそういうものじゃないって言ったんだけど、『いや、違う』って言い張られたことがあってね」
「世の中すべての女が、自分のことを好きだって思ってるみたいでしたよね」
「そうなんだよ。違うって言ってもきかないんだよね」
支店長がほんとうに職場の女性に対してそのような紳士的な考えを持っているかどうかはおいておきました。表向きだけでもそう言うのならまだましなほうですから。
しかし私が、
「だっておかしいですよ。普通、仕事するのに、体に触れる必要なんて全然ないですよね」
と言うと、支店長は急に黙ってしまいました。
てっきり同意してくれると思ったのですが、返事は返ってきませんでした。私の言ったことが間違っていると言いたいのでしょうか。
やはりこの男は信用できない……。用心したほうがいいと思いました。
そんなある日、たまたま支店長と外で昼食をとることになり、会社からほど近い店に入ったときのことです。
食事をしながら、支店長が訊いてきました。
「T山から電話あった?」
支店長はいつの間にか、次長を呼び捨てにしていました。
私は「いいえ」と首を横に振りました。
「俺、T山にひと言だけでもいいから、謝れって言ったんだけどな。もちろん電話でだけど」
「もしかかってきても、私、話したくありません」
「いや、わかってるよ。でも、男だったらどんなに冷たくされようと、それこそ蹴られようと、それでも詫びるものでしょ。あの会議のあった日にT山にちゃんと話したんだけどさ、あいつ、何も言わないで黙ってるんだよ。『すみません』って言ってすぐ切ってもいいからって言ったんだけど、なんで電話しないのかなぁ」
支店長なりに考えてのことだろうが、私はそんなことは望んでいませんでした。次長の顔も見たくないし話もしたくないのはずっと変わっていなかったのです。
このあと支店長は、
「会長にも自分で話せって言ったんだけど、言ってないみたいなんだ」
と言ったのですが、あの次長が自分で話すわけがないのだから、支店長から会長に報告するべきではないでしょうか。
「俺、とことんやり合ったほうがいいと思うんだ。一回、ふたりで会って、Hちゃんの気の済むように言いたいこと言ってさ。なんだったら殴ってもいいから。そのほうがいいと思うけどな」
支店長は、楽しそうに言いました。それは、傍観者である支店長が、見ていて面白いから言っているようにとれました。
この男に相談したのは間違いだったような気がしました。やっぱり全然わかっていなかったのです。
私が負った傷は、報復をもってしても消すことができません。
起きてしまったことは、たとえ相手を殺しても、なかったことにはならないのです。
支店長には理解できないことかもしれないけれど、仮にも上司であるのだから、もう少し考えようがあるだろうに、と私は悲しくなりました。
それから店を出て会社に戻る途中も、次長についての話は続きました。
「上司だったら、会社の女の子に好かれたいって思うものだけど、あいつの場合、意味が違うんだよ」と支店長。
「恋愛感情とはまた違った意味ですよね」
「うん。あいつにも、会社の女の子はそういうものじゃないって言ったんだけど、『いや、違う』って言い張られたことがあってね」
「世の中すべての女が、自分のことを好きだって思ってるみたいでしたよね」
「そうなんだよ。違うって言ってもきかないんだよね」
支店長がほんとうに職場の女性に対してそのような紳士的な考えを持っているかどうかはおいておきました。表向きだけでもそう言うのならまだましなほうですから。
しかし私が、
「だっておかしいですよ。普通、仕事するのに、体に触れる必要なんて全然ないですよね」
と言うと、支店長は急に黙ってしまいました。
てっきり同意してくれると思ったのですが、返事は返ってきませんでした。私の言ったことが間違っていると言いたいのでしょうか。
やはりこの男は信用できない……。用心したほうがいいと思いました。




