休み明けすぐに、事務所でF子とふたりきりになる機会が巡ってきました。支店長は留守、M美は私と入れ替わりに休暇中でした。
朝の掃除を終えて席に着くなりF子が、私の留守中に起こった事件についてしゃべり出しました。それは私の問題とは関係ないことで、M美のことでした。
M美が仕事でミスをしたというのです。彼女の仕事は金銭を取り扱う重要な役割を持っていて、書類の記入ミスから損失が出てしまい、大変な騒ぎだったというのです。
金に関してはしっかり者のM美がミスすること自体、私は信じられなかったけれど、間違ってしまったものは仕方がありません。とはいえ、必要以上に責任を追及するD会長がいるこの会社では、ただで済まされるはずはなく、恒例のいじめが始まったというわけです。
たしかに、金の失敗であるから、厳しく叱責するのは当然といえましょう。このあとが問題です。やっぱりD会長はやりました。M美に関する文書を各支店に送ったと。
私はF子にうながされて、その文書を読みました。わざわざ送ってくるほどの内容じゃないのに……と思いながらも、読んだ証としてはんこを押さねばなりませんでした。私は引き出しからシャチハタを取り出して、しぶしぶと押印しました。
この事件があった夜、支店長も含めてみんなでM美を連れて飲みに行ったということでした。F子の言葉を借りれば、「T(M美の姓)さんはものすごい荒れよう」で、「それはそれは泣いて泣いて、あんなT(M美)さんは見たことがない」とのことでした。
そしてM美は退職するとまで言ったらしいのです。「私が会社を辞めれば、さすがに会長も、自分がしていることに気がついてくれるんじゃないか」と切々と訴えたというから、相当追いつめられていたのでしょう。だが、会長にそのような人情があったなら、最初からいじめなどするはずがありません。M美には悪いけど、彼女が辞めたからといって、あの男が改心することはありますまい。と、私が言うまでもなく、支店長が必死の説得により彼女を思いとどまらせたというから、私の出番はなくなりました。
この件で私が一番驚いたのは、会長がM美にまでひどい仕打ちをしたことでした。M美は会長から気に入られ、かわいがられていたのに。
このことから私は悟りました。会長のいじめは無差別に執行されるのだ、と。
私は今でも思い出します。
M美が仕事中、会長に向けてつぶやいていた心の内を──
「死ねばいいのに……」
というわけで、ついにM美までもが餌食となったわけでしたが、彼女はすでに立ち直ったとのことだったし、やはり気に入られていたせいか、会長のいじめから解放されました。
一件落着となり、私は自身の問題へと引き戻されました。
朝の掃除を終えて席に着くなりF子が、私の留守中に起こった事件についてしゃべり出しました。それは私の問題とは関係ないことで、M美のことでした。
M美が仕事でミスをしたというのです。彼女の仕事は金銭を取り扱う重要な役割を持っていて、書類の記入ミスから損失が出てしまい、大変な騒ぎだったというのです。
金に関してはしっかり者のM美がミスすること自体、私は信じられなかったけれど、間違ってしまったものは仕方がありません。とはいえ、必要以上に責任を追及するD会長がいるこの会社では、ただで済まされるはずはなく、恒例のいじめが始まったというわけです。
たしかに、金の失敗であるから、厳しく叱責するのは当然といえましょう。このあとが問題です。やっぱりD会長はやりました。M美に関する文書を各支店に送ったと。
私はF子にうながされて、その文書を読みました。わざわざ送ってくるほどの内容じゃないのに……と思いながらも、読んだ証としてはんこを押さねばなりませんでした。私は引き出しからシャチハタを取り出して、しぶしぶと押印しました。
この事件があった夜、支店長も含めてみんなでM美を連れて飲みに行ったということでした。F子の言葉を借りれば、「T(M美の姓)さんはものすごい荒れよう」で、「それはそれは泣いて泣いて、あんなT(M美)さんは見たことがない」とのことでした。
そしてM美は退職するとまで言ったらしいのです。「私が会社を辞めれば、さすがに会長も、自分がしていることに気がついてくれるんじゃないか」と切々と訴えたというから、相当追いつめられていたのでしょう。だが、会長にそのような人情があったなら、最初からいじめなどするはずがありません。M美には悪いけど、彼女が辞めたからといって、あの男が改心することはありますまい。と、私が言うまでもなく、支店長が必死の説得により彼女を思いとどまらせたというから、私の出番はなくなりました。
この件で私が一番驚いたのは、会長がM美にまでひどい仕打ちをしたことでした。M美は会長から気に入られ、かわいがられていたのに。
このことから私は悟りました。会長のいじめは無差別に執行されるのだ、と。
私は今でも思い出します。
M美が仕事中、会長に向けてつぶやいていた心の内を──
「死ねばいいのに……」
というわけで、ついにM美までもが餌食となったわけでしたが、彼女はすでに立ち直ったとのことだったし、やはり気に入られていたせいか、会長のいじめから解放されました。
一件落着となり、私は自身の問題へと引き戻されました。




