廊下のベンチに並んで座ると、M弁護士は言いました。
「どうする? 私は、頭なんか下げてもらわなくていいと思うんだけど」
私は、黙ったまま考えていました。
T山が頭を下げたからといって、私の気は少しも晴れることはありません。
だが、頭の中で、あの日の裁判官の言葉が響きました。
「法廷で頭を下げるということが、どれだけ勇気がいると思っているんですか!!」
どれだけ勇気がいるというのでしょう。そもそもT山の自業自得なのだから、頭を下げさせることを迷うことはありません。そんなことよりも先に考えるべきは、被害者がセクハラを訴えることがどれだけ勇気がいるかということのはずです。それなのに、なぜ私が被告人みたいに怒鳴られなければならなかったのでしょうか。このことはただでさえ納得いかないのに、このまま終わらせたら、私は怒鳴られ損です。それに、その行為があったというだけでも、私にとっての数少ない収穫になるではないかと思いました。ばかばかしい茶番と思ったけれど、何もないよりはましでした。
私はきっぱりと言いました。
「頭を下げてもらいます」
部屋に戻り、M弁護士が裁判官にその旨を伝えました。
「それじゃあ、一礼してください」
裁判官に言われると、T山は椅子から立ち上がり、その場でぴょこんと頭を下げたのでした。
誰も何も言いませんでした。
私はあまりのあっけなさに、バカみたい……と冷めた気持ちになりました。
M弁護士は「行きましょうか」と、私をさっさと室外に連れ出しました。こうなることを、彼女は想定していたのかもしれませんね。だから反対したのでしょう。
私たちは振り向きも何もせず、エレベーターで一気に一階までおりると、そのまま外に出ました。
駐車場のところまで来たとき、M弁護士は立ち止まって、
「お金は、私から弁護士協会に渡しておきます」
と説明し、
「それと、これは必要ないから持って行っていいですよ」
と、T山の謝罪文を差し出しました。
必要ないというのは正直そうかもしれないけど、私はなんとなく悲しいような複雑な気持ちで、それを受け取りました。とにかく、私の戦利品でした。
それから最後に、彼女は笑顔で言いました。
「よくがんばりました」
私は簡単には喜べませんでした。結果に結びつかなかったことが無念でしたから。
私は複雑な心境で彼女に礼を言い、ふたりはここで別れました。M弁護士と会ったのは、このときが最後です。
「どうする? 私は、頭なんか下げてもらわなくていいと思うんだけど」
私は、黙ったまま考えていました。
T山が頭を下げたからといって、私の気は少しも晴れることはありません。
だが、頭の中で、あの日の裁判官の言葉が響きました。
「法廷で頭を下げるということが、どれだけ勇気がいると思っているんですか!!」
どれだけ勇気がいるというのでしょう。そもそもT山の自業自得なのだから、頭を下げさせることを迷うことはありません。そんなことよりも先に考えるべきは、被害者がセクハラを訴えることがどれだけ勇気がいるかということのはずです。それなのに、なぜ私が被告人みたいに怒鳴られなければならなかったのでしょうか。このことはただでさえ納得いかないのに、このまま終わらせたら、私は怒鳴られ損です。それに、その行為があったというだけでも、私にとっての数少ない収穫になるではないかと思いました。ばかばかしい茶番と思ったけれど、何もないよりはましでした。
私はきっぱりと言いました。
「頭を下げてもらいます」
部屋に戻り、M弁護士が裁判官にその旨を伝えました。
「それじゃあ、一礼してください」
裁判官に言われると、T山は椅子から立ち上がり、その場でぴょこんと頭を下げたのでした。
誰も何も言いませんでした。
私はあまりのあっけなさに、バカみたい……と冷めた気持ちになりました。
M弁護士は「行きましょうか」と、私をさっさと室外に連れ出しました。こうなることを、彼女は想定していたのかもしれませんね。だから反対したのでしょう。
私たちは振り向きも何もせず、エレベーターで一気に一階までおりると、そのまま外に出ました。
駐車場のところまで来たとき、M弁護士は立ち止まって、
「お金は、私から弁護士協会に渡しておきます」
と説明し、
「それと、これは必要ないから持って行っていいですよ」
と、T山の謝罪文を差し出しました。
必要ないというのは正直そうかもしれないけど、私はなんとなく悲しいような複雑な気持ちで、それを受け取りました。とにかく、私の戦利品でした。
それから最後に、彼女は笑顔で言いました。
「よくがんばりました」
私は簡単には喜べませんでした。結果に結びつかなかったことが無念でしたから。
私は複雑な心境で彼女に礼を言い、ふたりはここで別れました。M弁護士と会ったのは、このときが最後です。




