『セクシュアルハラスメント』と『セカンドハラスメント(二次的嫌がらせ)』の被害者の声です。
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六月十四日が和解の日でした。
和解という選択が、ほんとうにそれでよかったのかと、何度も自問を繰り返しながらこの日を迎えました。

きょうですべてが終わるのだ……。

ここまでくるのに、とても長い時間を費やしてきました。早く終わりにして楽になりたいと思う一方で、どんな結果になろうとも最後まで戦いたいと願う気持ちがありました。どちらの選択が自分にとって最良なのか、まだわからないでいました。

しかし、もう答えは出してしまいました。取り消すことはできませんでした。ほんとうに後悔しないのか、それを考えると気分が重くなりました。
そして何よりも憂うつだったのは、T山の顔を見ることと、T山に自分の顔を見られることでした。そのことがとても汚らわしく感じられたのです。


夕方、裁判所の駐車場に車を停めてから、ロビーで弁護士を待ちました。彼女は、数分後に現れました。

和解の場所は、裁判所内の八畳ほどの部屋で、テーブルと、それを取り囲むパイプいすが置かれていました。窓がないせいかとても狭く感じ、息苦しかったです。

時間になると、裁判官が来て、奥の席に座りました。一時は憎らしいとさえ感じたものでしたが、このときはおとなしい印象でした。それは当然か――彼の望む結果となったのだから、もう私を怒鳴ったり睨んだりする必要はなくなったのです。

私とM弁護士は、入り口側に並んで座り、向かいにT山とその弁護士が座りました。
私は、T山の顔を見て、きょうで終わりにするという自分の選択が正しかったのだと思いました。とはいっても、それはいい意味ではありませんでした。

T山の表情は、私がT山のことを好きだとまだ信じているような明るいもので、セクハラをしていた頃と何らの変化も見受けられなかったのです。
どうやらT山には、相手が嫌がっていることを感知する能力と、誰もが持っていなければならない常識的な思想が欠落していたのです。こんな男に私はつまずき転び、人生を狂わされたのです。情けなくもくやしいけれど、こんな正真正銘のばかを相手にどこまでやっても答えは同じ。どこまでいっても疲れるのは私で、傷つくのはやはり私でしかありません。ようやくそのことに気がついて、完全に諦めがついたのでした。

裁判官は、書類に目を落とし、和解の条項をずらずらと読みあげました。解決金のこと、保険料と税金の立て替え金を会社が負担すること、また、その請求をしないこと、などでした。

この日、被告側からは、謝罪文と解決金を受け取りました。謝罪文は次のとおりです。



 この度は私の誤解をまねくような言動により、不快感与えました事を深くお詫び申し上げます。
 D会長には、社会人としての自覚が不足しているとのお叱りを受け、自分自身の自覚の無さと配慮に欠けていました事を深く反省しております。
 今後は二度とこのような誤解を受けることの無い様に厳重注意致しますので、今回の件につきましては、ご容赦下さいますようお願い申し上げます。
T山××



いかにも書かされて書いたような文面。それにしても、セクハラを「誤解をまねくような言動」とされるのはやっぱりくやしかったし、「今後は厳重注意します」と言われても、会社を辞めている私には意味のない言葉でした。
そんなことを考えながら謝罪文をじっと見ていると、
「これでいいですか」
と裁判官が訊いたので、私は一言「はい」と返事をしました。
「それと、頭を下げてもらうというのはどうしますか。まあ、会釈程度で、何も言葉は言わずに、その場で一礼という感じですが」と裁判官。
私は沈黙しました。するとM弁護士が、
「少し時間をもらえますか」
裁判官にそう言って、私を部屋の外にうながしました。


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