TOP > CATEGORY − B-15正義はどこにあるのか
あの日は五月七日、第五回目の裁判でした。私は、父から借りた車で裁判所へ向かいました。裁判所の敷地内に駐車場があるので、そこに車を停めました。
私は車を降りて歩きながら、裁判所の建物を見あげました。大きな建物ではあるけれど、特には何も感じませんでした。もっと圧倒されるかと思っていましたが、ほんとうに、「何も感じなかった」という表現がぴったりの心境でした。
M弁護士とは裁判所の一階で待ち合わせをしていました。建物の出入り口付近で彼女の姿を捜しましたが、私のほうが早く着いたようでした。私は、ロビーを見渡しました。外観と同様、広いけれど質素な感じでした。
私は、弁護士が来たらすぐに気がつくように、ずっと周りを見渡していました。すると、私の視界に、出入り口に向かって歩いていく、見たことのある人物が入ってきました。――Wでした。おそらく、被告側の弁護人を送り届けて帰る場面だったのでしょう。こちらには気がついていないようでした。久しく会っていなかったけれど、彼は何も変わっていませんでした。
私は、彼を見つめながら、怒りが湧きあがるのを覚悟しました。しかし、怒りどころか、これといった感情が湧いてこなかったのです。彼を軽蔑する冷めた心が、私をしらけさせていたのでしょうか。それとも、私はもう彼の手の及ばないところにいて、立場が対等になっていたから、そのことが余裕となっていたのかもしれません。彼はもはや異世界の住人で、私にとってはリアリティのない存在となっていたのでした。
その中年男は、とうとう私に気がつかないまま、建物を出て行きました。
それから少しして、M弁護士がやってきました。私は彼女にWのことを話しながら、エレベーターで裁判がひらかれるフロアまで向かいました。
そのフロアは、一階とは少し雰囲気が違っていました。廊下にはカーペットが敷いてあり、なんとなく上品な感じでした。私とM弁護士は、もうそろそろ時間だったので、裁判室を覗いてみました。が、別の裁判がまだ終わっていませんでした。
終わるまでのあいだ、ふたりは並んで廊下の倚子に座りました。その場所からは、廊下をはさんで正面に、ドアがたくさん並んでいるのが見えました。映画館を思わせる扉でした。
数分後、前の裁判が終わりました。
私はM弁護士にうながされて法廷へと入りました。手前には傍聴席があり、その先の右手が被告席、左手が原告席でした。さらに奥には裁判官の席が設けられていました。前の裁判は終わっていましたが、まだ裁判官や傍聴人が残っていました。私とM弁護士はとりあえずあいている傍聴席に腰掛けました。
やがて裁判官も傍聴人も全員退室し、法廷には私とM弁護士のみになりました。私たちは原告席に移動しました。私の右手には誰もいなくなった傍聴席が見えました。私はむなしくなりました。一般人のセクハラ民事裁判なんて誰も興味を持たないのはわかるけれど、私の事件が社会的にはどうでもいいことだと示されたような気がして、とても寂しく思えたのです。
私は車を降りて歩きながら、裁判所の建物を見あげました。大きな建物ではあるけれど、特には何も感じませんでした。もっと圧倒されるかと思っていましたが、ほんとうに、「何も感じなかった」という表現がぴったりの心境でした。
M弁護士とは裁判所の一階で待ち合わせをしていました。建物の出入り口付近で彼女の姿を捜しましたが、私のほうが早く着いたようでした。私は、ロビーを見渡しました。外観と同様、広いけれど質素な感じでした。
私は、弁護士が来たらすぐに気がつくように、ずっと周りを見渡していました。すると、私の視界に、出入り口に向かって歩いていく、見たことのある人物が入ってきました。――Wでした。おそらく、被告側の弁護人を送り届けて帰る場面だったのでしょう。こちらには気がついていないようでした。久しく会っていなかったけれど、彼は何も変わっていませんでした。
私は、彼を見つめながら、怒りが湧きあがるのを覚悟しました。しかし、怒りどころか、これといった感情が湧いてこなかったのです。彼を軽蔑する冷めた心が、私をしらけさせていたのでしょうか。それとも、私はもう彼の手の及ばないところにいて、立場が対等になっていたから、そのことが余裕となっていたのかもしれません。彼はもはや異世界の住人で、私にとってはリアリティのない存在となっていたのでした。
その中年男は、とうとう私に気がつかないまま、建物を出て行きました。
それから少しして、M弁護士がやってきました。私は彼女にWのことを話しながら、エレベーターで裁判がひらかれるフロアまで向かいました。
そのフロアは、一階とは少し雰囲気が違っていました。廊下にはカーペットが敷いてあり、なんとなく上品な感じでした。私とM弁護士は、もうそろそろ時間だったので、裁判室を覗いてみました。が、別の裁判がまだ終わっていませんでした。
終わるまでのあいだ、ふたりは並んで廊下の倚子に座りました。その場所からは、廊下をはさんで正面に、ドアがたくさん並んでいるのが見えました。映画館を思わせる扉でした。
数分後、前の裁判が終わりました。
私はM弁護士にうながされて法廷へと入りました。手前には傍聴席があり、その先の右手が被告席、左手が原告席でした。さらに奥には裁判官の席が設けられていました。前の裁判は終わっていましたが、まだ裁判官や傍聴人が残っていました。私とM弁護士はとりあえずあいている傍聴席に腰掛けました。
やがて裁判官も傍聴人も全員退室し、法廷には私とM弁護士のみになりました。私たちは原告席に移動しました。私の右手には誰もいなくなった傍聴席が見えました。私はむなしくなりました。一般人のセクハラ民事裁判なんて誰も興味を持たないのはわかるけれど、私の事件が社会的にはどうでもいいことだと示されたような気がして、とても寂しく思えたのです。




